日暮れになりいつものように野営の準備をして、近くの森の中へ薪を集めに行く。
薪を拾っていると珍しくロシェがこちらにやってきた。「どうかしたのか?」
『いえ、なんだか嫌な予感がしたのよ』その時、近くの木からカサッと物音がした。
俺はその方向を見ようとしたが、次の瞬間ロシェに体を押し倒された。「な、なんだいきな『敵よ!早く立って!』
俺が言い切るより先にロシェが俺に檄を飛ばしてきた。
その声に危機を悟った俺は急いで立ち上がると周囲を確認する。索敵スキルには何の反応もなかった。相手は気配を隠して攻撃してきたということだ。「大丈夫ですか?何があったんです?」
ロシェの声に気づいたらしいカサネさんがこちらに近づいてきた。
『木の上に敵よ!アキツグ、光を』
言われてライトの魔法を発動させると、そこには木の上から獲物を狙うようにこちらを見つめる大型の獣の姿があった。姿はイタチに似ていたが、その体毛は漆黒で口から伸びる鋭い牙と前足に生えた鉤爪がその凶悪さを表していた。
そいつは光を嫌うようにすっと木の影に姿を消した。「退いたのか?」
『多分違うわ。気配を殺してこちらの隙を伺っているのよ。警戒を緩めないで』俺達が警戒しながら相手の出方を伺っていると、向こうの方から仕掛けてきた。
狙いは・・・ロシェだ!『ッ!』
紙一重でロシェがイタチの攻撃を避けた。カサネさんが相手が着地したところに魔法を発動する。
「アイシクルランス!」
しかし、イタチは素早い身のこなしで跳ねるとその攻撃を軽く回避した。
空中に浮いたところを狙って俺が魔銃を撃ち放つも、イタチは近くの木の幹を蹴ってその射線から逃れた。『森の中じゃ不利だわ。外に!』
ロシェの指示で俺達は森の外へ出ようとしたが、動きを察知したイタチが先回りして、こちらの進路を妨害してきた。
「逃がす気はないってことか。頭も回るし厄介な奴だな」
姿を隠されるとこちらからは見つけることができず、イタチの攻撃の返
俺とカサネさんは思わず姿勢を正して跪くような姿勢を執る。入ってきたのはミアの父親でもあるモルドナム国王だった。「今はプライベートだ、楽にしてくれ。というよりエルミアよ、皆に話しておらなんだのか?」 「びっくりするかな~?って思って♪」ビックリするどころではない。突然国王陛下が部屋に入ってきたら、こうもなろうというものだ。まぁよく考えればその娘の部屋に居るのだから、有り得ないことではない話ではあったのだが。「まったく、困った子だ。エルミアには事前に伝えておいたのだが、この子に悪戯に付き合わせてしまったようだ。驚かせてしまいすまない」 「い、いえ。とんでもありません。お会いできて光栄です」 「先ほども言ったが今はプライベートだ。言葉遣いも普通で構わぬ。それより、此度もエルミアを助けてくれたそうだな。ダンジョン攻略でも要になったと聞いた。そなたらの貢献、王として、そしてこの子の父親として礼を言わせてくれ」そう言ってモルドナムは頭を下げた。他に誰も居ないとはいえ一国の王が頭を下げるなど余程のことである。どう返事をするのが正しいのかも分からず、仕方なく無難に返答することにした。「は、はい。ミアは大切な友達ですから、助けるのは当然のことです。それに今回のダンジョン攻略は私達の目的でもありましたから、むしろ同行の許可を頂いたこと感謝致します」 「確かにそのような話も聞いて追ったな。先ほどもエルミアが楽しそうに笑っていたようだが、どのような話をしていたのだ?」 「それがね。お父様――」エルミアが楽しそうに俺達から聞いた話をいくつか父親にも話した。 モルドナムは娘のそんな様子を話に頷きながら見ていた。「なるほどな。フィレーナからの推薦状は受け取ったが、そのような事情であったか」そう言ってモルドナムは少し考えるような仕草を見せた。 俺はフィレーナさんの名前が出たことで気になったことを聞いてみた。「そういえば、フィレーナさんとはお知り合いなのですか?」 「知り合いも何も、フィレーナは昔、共に旅をした仲間の一人だ」 「お父様が旅に?初めて聞きました」
「俺も六属性に適性が?」 「えぇ。私も正直信じ難いですが、間違いありません。全属性への適性持ちなんて公になっている限りでは十人も居ないはずなんですが・・・」なったばかりとはいえ、既にここに二人いることになる。 その上ミアも五属性持ちだ。「うわ~ん。アキツグにも負けた~!五属性なんて十分貴重なはずなのに~!」驚いて固まっていた俺に対して、ミアは悔しそうにそう叫んだ。「ひ、姫様落ち着いて下さい。このお二人が異常なのであって姫様は十分に才能がおありです」 「そ、そうですよ。五属性持ちだって世界に二十人いるかどうかくらいですし」ソラフィールさんがそう言って取り成そうとしたが、本人も冷静さを欠いていたためにかなり失礼な物言いになっていた。そしてカサネも落ち着かせようとフォローしたのだが、その発言は六属性持ちが言ってもフォローになっていなかった。「そうだぞ、適性があるって言っても攻撃魔法はライトニングしか使えないし、宝の持ち腐れみたいなもんだから」 「えっ、そうなんですか!?」 「でも、アキツグはスキルが・・・っと、うん、そうだよ罠解除やスラッシュみたいなスキルまであるし多才過ぎるよ!」 「えぇ?六属性持ちなのに、探検家や剣士系のスキルをお持ちなんですか?」俺のフォローに、思わず俺のスキルのことを口走りそうになったミアだったが、ぎりぎりで踏みとどまって上手く話をすり替えた。まぁ別の意味でスキルをばらされているが、そっちは困るものでもないので良しとしよう。 ソラフィールさんは俺の変な能力の組み合わせに驚きながら困惑していた。「は、はい。今まで鑑定を受けたことがなかったので、自分では普通のつもりだったんですが、かなり勿体ない気分になってしまいますね」 「そ、そうですね。けれど後天的に魔法を会得する方も稀に居らっしゃいますし、希少ではありますがスキルブックもありますから。可能性がある分アキツグさんは十分恵まれていると思いますよ」 「ありがとうございます。そう考えるようにします」どうにかその場を取り繕いソラフィールさんに鑑定の礼を告
ダンジョンから戻った後は前回と同じ部屋での休息が許された。 戻ってこれた安堵感からかやはりその日もすぐに眠ってしまい、翌朝は再び食堂で朝食をご馳走になっていると、そこにミアがやってきた。「おはよう~昨日はお疲れ様」 「あぁ、おはよう。昨日は結構辛そうだったけど、もう大丈夫なのか?」 「うん。一晩休んだらすっかり良くなったよ。むしろ調子が良いくらい」ミアはそう言って胸を張った。確かに顔色も良さそうだ。 ちなみにカサネさんも今朝あった時には何事もなかったようにケロッとしていた。「そうそう、それで昨日言ってた鑑定士についてなんだけど、許可が貰えたからそれ食べ終わったら一緒に行きましょ!」 「おぉ、そうなのか。ありがとう・・・って、ミアも一緒に来るのか?」 「もちろん!アキツグの属性適性とか私も気になるもん。・・・ダメ?」そこまで勢いで言ってから、最後に伺う様にこちらに聞いてきた。 一応属性適性は個人情報だ。あまり人に見せびらかすようなものではない。 とはいえ、ミアに知られて困るようなものではないし、たぶん鑑定士についてもミアが口添えしてくれたおかげもあるのだろう。断る理由はなかった。「いや、ミアが気になるなら別に構わないけど、忙しいんじゃないのか?」 「昨日のでひと段落したからね。今日は一日お休みにして貰ったの。それで鑑定が終わったら、冒険のお話とかもっと聞かせて欲しいの。別でお願いしたいこともあるし」 「そういうことか。そのくらいなら全然構わないさ。二人も良いよな?」 「もちろんです。私もミアさんとお話ししたいですから」 『そうね。来た時にはあまり話もできてなかったし、良いと思うわ』 「良かった!それじゃ、ちゃっちゃと食べちゃって!」と言いつつも特段急かすようなことはせず、雑談をしながら食事を終えた。 途中、ミアが近くの兵士に何かを頼んでいたのが少し気になったが。 そうして、ミアの案内で鑑定士のところまでやってきた。 ミアがコンコンと扉をノックすると中から「どうぞ」と女性の声が聞こえた。 扉を開けると応
ほとんど同時にミアがガクッと地面に膝をついた。よく見れば額には大量の汗を浮かべている。「姫様!大丈夫ですか!?」 「だ、大丈夫よ。魔力が体の中でぐちゃぐちゃになったみたいで気持ち悪くなっただけ」 「それは、大丈夫と言えるのか?」 「・・・分かるのよ。自分の中の魔力の質が明らかに変わったってことが。それに少しずつ落ち着いてきているから、少し休めば良くなると思う」よく分からないが本人がそう言うのなら多分そうなのだろう。 ということはさっき水晶の中で増えた光が追加された属性なのだろうか?「断定はできませんが、恐らく儀式は成功したということですな。では、今回の作戦に参加したものはこれの使用許可を頂いている。望むものは順に触れるが良い。 まずはカサネさんからだな。どうぞ」ミアの様子から王族の務めが完了したと判断したゴドウェンは、そう言ってカサネさんに場所を譲った。「あ、ありがとうございます」カサネは緊張した様子で台座の前に行き、水晶に触れる寸前でその手を止めた。 緊張するのは当然だろう。カサネさんがあの魔法を扱えるようになるためには残り二つの属性の適性を得なければならないのだ。 だが、一つ息を吐くと意を決してその水晶に触れた。するとミアの時と同じように四つの光が現れて回転を始め、そこに二色の光が生まれ合流すると徐々に薄れて消えていった。 先にミアの様子を見ていたからなのか、カサネさんは膝をつきはしなかったが、やはりその額には大量の汗を浮かべていた。「カサネさん、大丈夫か?」 「うっ、はい。覚悟していたつもりですけど、本当にこれはきついですね。でも、何かが変わった感覚はあります。上手くいったみたいです」 「あぁ、ちゃんと二色の光が増えていた。やったなカサネさん」 「はい。ありがとうございます」まだ辛そうではあったが、それでもカサネさんは笑顔で答えた。 周囲では「六属性?嘘だろ?」っとざわついたりしていたが。 その後、魔導士数人も水晶に触れたが一人が属性を一つ得ただけで他の人には何の反応も起きなかった。最初の二人を見てい
「これがゴーレムの核になっていたものか」勝利の余韻が収まったところで、ゴドウェンさんが先ほどゴーレムが消滅した場所に残されたガラス玉を拾い上げた。 それは罅割れており、見た目にも価値のある者には見えなかった。「ドロップ品・・・じゃなさそうね。あの攻撃で壊れた可能性もないとは言い切れないけど」 「仕方ないでしょう。あれ以外の方法で倒そうとすればどれだけの時間が掛かったか、というより倒せたかどうかすら怪しい相手でした」 「そうね。とりあえず持っていきましょうか」ガラス玉についてそう結論付けたゴドウェンとミアは、その視線をこちらに移し、近づいてきた。「アキツグさん、お見事でした。あの弱点看破がなければこんなに早く討伐することは不可能だったでしょう」 「ほんと良く気づいたわね。流石は私が見込んだ冒険者ね!」 「あ、ありがとうございます。でも、本当に偶々だったので・・・」二人の言葉に周囲の人達まで賛同してくれていたが、俺としては気になったから試してみた程度のことだったので、そこまで称賛されても素直には受け入れられなかった。『直感だって大事な能力の一つよ。あなたはそれだけのことをしたんだから、たとえ運が良かったのだとしても、今は喜んでいいんじゃない?』そんな俺の心情を読み取ったのかロシェがそんな風に言ってくれた。(・・・そうか、トラップやミアの件で俺はまだ力不足だと思っていたが、最後では役に立てたんだ。運もあったと思うけど、少しは成長できているのかもな)「ありがとうロシェ。そうだな、運も実力のうちっていうし今は素直に喜んでいいよな」 『えぇ、そうしなさい』 「そんなに謙遜する必要はないと思いますよ?アキツグさんは私の時も助けてくれましたし、目端が利く優秀な人だと思います」 「そんな・・・いや、うん。ありがとう」聞かれていたとは思わなかった会話に、さらっと入ってきたカサネさんからのそんな言葉に思わずまた否定しそうになったが、思い直して素直に礼を言った。「さて、それではあの大扉の先を見に行くとするか」ゴドウェ
(厄介だな。あとどれだけ攻撃すれば倒せるのかも見当がつかないし、長期戦になるとこっちが不利だ。何か弱点とかないんだろうか?)そう思って観察してみるが、パッと見にはそれらしきものは見当たらない。 まぁ、簡単に分かるようなものがあれば誰かが気付いているだろうから当然と言えば当然なのだが。 そんな俺の様子に気づいたのかロシェが近づいてきた。『手が止まってるみたいだけど、どうかしたのアキツグ?』 「いや、何か全然ダメージが通ってる気がしないからどこかに弱点でもないかと思ってさ」 『あぁ、なるほど。確かに結構な攻撃を受けてるはずなのに見た目的にはほとんど変わりないものね。魔法生物だから、見た目そのままかは分からないけれど』 「実は効いてるかもしれないってことか?」 『可能性としてはね。でもあのゴーレムは動きが鈍くなったりもしてないし、期待は薄いかしら。ほら、こっちが手を止めちゃってるからまた向こうに倒れこみを仕掛けてるわよ?』ロシェの言葉に振り向くとまさにゴーレムが向こう側に倒れこんだところだった。 だが、その光景に僅かな違和感があった。「なぁ、今ゴーレムの背中が膨らんでなかったか?」 『え?よく見てなかったけど、気のせいじゃないの?』言われてロシェが目を向けた時には特におかしなところは見当たらなかった。 しかし、気になった俺は再びゴーレムが倒れこみの動作に入ったタイミングで、先ほど気になったあたりに狙いを付けてライトニングの魔弾を撃ち放った。 「ダァン!」とゴーレムが地面にぶつかった音が響くのとほぼ同時に、アキツグの放った魔弾がゴーレムの背中の一部に着弾した。 その瞬間「ギギギギィ!」とゴーレムから異音が鳴り響いた。「なんだ!?」見るとゴーレムが衝撃を受けた様にその鉄の表面を震わせていた。だがすぐにそれも収まり通常の状態に戻った。 良くは分からないが、何らかの効果はあったらしい。一応起きたことを大声で全員に伝えた。「皆さん!倒れこんだ直後にゴーレムの背中に膨らみができていました。今のはそこにライトニングを当てた結果です。もし